セールスがクライアントを論破するなんてことは絶対にあってはいけない

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そんなことするわけないじゃん、お客様は神様だぜ。

つねに平身低頭で新人セールスマンみさおの如く、つねに相手を敬い、こびへつらって商談してるよ、そんな偉そうに論破なんてしないぜと思っている皆さん。

あなたの作った、完璧な企画書と、ビッグデーターからえたようなデーターとその分析、そして、最高のプレゼン力に支えられた究極のセールストークが、クライアントを論破しているとしたらどうですか。

先輩係長との同行

「と、色々たいそうなご提案をしてきましたが社長。ぶっちゃけ、今月の売上厳しいんですよ。助けると思って一口おねがいしますよ」
「なんやそれは、なんでわしが、お前の売上助けなあかんねん。それはお前の問題やろ」

新人セールスマンみさおが、のりにのっていた入社3年目のころ、42歳のおっさん先輩セールスと同行することになった。おっさんといっしょに回って、勉強させてもらえと、研修のいっかんで、課長からの指示だった。

当時いけいけだった新人セールスマンみさおは、今さらこんなおっさんと回っても、しゃあないで、何を学べっちゅうんじゃと思いながらも、上司に媚びてきた新人セールスマンみさおは、いいんですか、うれしいです勉強させてもらいますと返事し、同行の運びとなった。

(やはりな)

新人セールスマンみさおは、こころのなかでつぶやいた。なんで、そうへつらうかなあ、こっちの弱み見せてどうする。頼んだら、相手に借りを作ることになるやんけ。あのままの流れやったら、クライアントもハンコ押したのに、なんか詰めが甘いというか、普通っぽいというか、学ぶことはなんにもないなあと、先輩とクライアントとの商談を見て思った。

商談のあと2,3の雑談を終え、お礼を言って店をあとにした。営業車にのりこんで、走りだすと先輩が助手席で話し始めた

「さき、めしいこか。うどんでええやろ」
「はい」

先輩のいきつけのうどんやへの道を教えてもらいながら、あいまに、商談についての話があった

「やったなあ、きまったなあ。ここがとれたのはでかい、今日の一番店やったからなあ」
「はい、さすがす」

今日はあと数店まわる予定だが、さきほどの店が今日のメイン。正直、ここが決まればあとは、まあ、どうでもいい。それほど、おおきな比率を占めていた商談。是が非でも決めたかった。それが決まった先輩はごきげんだった。

入社2年目の新人セールスマンみさお。1年目は新人なのに全体の6番になり、今度の新人はええぞとチヤホヤされていて、世間を知らずに有頂天になっていた新人セールスマンみさおは、その勢いのまま先輩に言った

「先輩、なんで最後に頼んだんですか?」
「どういうこと?」

頼んだんってどういうこと、いやいや、ふつう頼むやん、商談なんやからと、この新人は何を言うとんねんという顔で聞き返した。生意気盛りの新人セールスマンみさおは続けた

「先輩の商談はすごかった。データーも揃っていたし、そのデーターを生かした商談も理路整然と論理的だし、クロージングまでの流れも最高だった。さいごに、お願いなんかしなくても、ぶっちゃけなくても、とれてましたよ、せやのになんで?」
「ああ、そういうことか」

先輩は後輩に褒められて気分がさらによくなり

「まじ?いけてた、そうか、みさおちゃんに褒められたらうれしいなあ。そうか、いけてたか」
「だから、なんでなん?」

興奮すると先輩にもタメ口になる癖がある新人セールスマンみさおは聞いた

「ああ、そっちね。なんやろうな、昔からのくせかなあ、なんか知らんけど、おれは、お客さんの前にいくと、やたら恐縮して、萎縮してしまうねん。これは商取引やから対等やっていうけど、おれは、どうしてもお客様は神様と思ってしまう。だから、最後になんかああやってまうねんなあ、そのまま締めればいいんだけど」

ださい、ださすぎる。完全におっさんやし、ネクタイの玉はでかいし、ネクタイは芋洗坂係長なみに短いし、靴は革靴ではなくスニーカー風の黒いビジネスシューズやし、売れるけど、ださいなあ、こういう人は、平成には生き残れないなあと、クソ生意気な新人セールスマンみさおは、助手席でふんぞり返っている先輩を上からしたまで、なめるように見た。

「そうですか、なるほど」

と言葉を発したところで、目的地のうどん屋についた。

そのあと2件の軽めの商談に同行した後、先輩と別れた新人セールスマンみさお。ひとりで営業車を運転しながら考えていた。あれは絶対に駄目だよな、あれは商取引ではない。データーを駆使して、論理的にまとめ、クライアントにとっても、価値のある、売上も利益もあがる商談をしている。お互いにとって、完全にwin-winの関係。何をあそこまでひれ伏す必要があるのか。

他にもああいう先輩がいるがダサくてみてられないよな、あんな商談するからなめられんねん。俺はあんなふうにならない、もっとスマートな営業マンになってやる。

芋洗坂係長との同行のあとの帰りの車で、そうちかった新人セールスマンみさお。実際、彼はその後、商談を論理的に、神レベルまで高め、次々に商談を決めていった。そして、その商談方法を確立し、7年が過ぎようとしたときに、それを根本から覆される事件が起こった

後輩新人との同行

時はすぎ、新人から中堅セールスマンになったみさお。今度は後輩を始動する立場になった。上司から、後輩のチャラ男マンと一緒に回ってやってくれと言われ、しぶしぶ了解した。このチャラ男マンは、チャラ男とアダ名がついていることからわかるように、ほんとチャラ男だった。営業マンのくせに髪はちょっとだけ茶色だった。上司からとがめられると、もともとあかいんっすよと、高校生の言い訳のようなことを言っていた。

このチャラ男マン、7年前の新人セールスマンみさおの生意気ぶりに輪をかけたようなイケイケで、先輩たちをバッタバッタとなぎ倒して頭角をあらわしていた。なかはよかったのだけど、同行営業は始めてだったのだが、こいつの性格から、その同行は面倒くさいものになると容易に予想できた

「みさおさん、今日何件回るんすか?ガンガン行きましょね。みさおさんとやったら怖いもんなしですよ」
「よ、4件や。がんばろう」

10年営業マンとしてもまれ、年もとったせいか、すっかり牙をもがれた中堅セールスマンみさおは勢いのあるチャラ男マンに完全に圧倒されていた。

そして、朝一番の商談を行なった。新人以来、ずっとつづけている、理路整然とした商談を行ない、チャラ男の前で、見事に決めてやった。どうや、偉そうにゆーても、俺もなかなかのもんやろ参ったかと思いつつも、クールに店を後にし、これくらいあたりまえだぜという風に、営業車に乗り込んだ。しばらくしてチャラ男が口を開いた。

「みさおさん、お疲れっす。見事に決まりましたね、さすがですね。せやけど、最後になんで頼まんかったんですか?」
「た、頼む?なにを」
「何をって、買ってくださいって頼むんですよ。お願いしますって頼むんですよ」

おいおい、ちょっとまって、ちょっとまってお兄さんと中堅セールスマンみさおはココロのなかでつぶやいた。おいおい、まさかこいつが、芋洗坂係長スタイルの営業マンだったとは。なんやチャラ男お前も旧態依然の、お願いスタイルの営業か。お前は昭和って言うより平成のイメージやろ、スマートに見えて、全然やなあとの思いから、あのさあ、チャラ男マンと言おうとしたらチャラ男が口を開いた

「論破してどうするんですか。クライアントをいいくるめて、いてこましてどうするんですか」
「は?」

意味がすぐに理解できなかった中堅セールスマンみさおは言葉を失った。

「いやいや、みさおさんの、セールスは完璧で理論も完璧で、凄いですよ。でも、クライアントは、なんか、いいくるめられた、とらされたって感じですよ。間違っていないから、とるけど、なんかなあって思っていると思ってますよ。相手にそんな気分にさせて得なことなんてないでしょ」

絶句した。チャラ男のひとことで、思いが7年前までさかのぼった。ちょっとまつのは俺の方だ、芋洗坂係長は、これだったのか。論破しても意味ないでと新人セールスマンみさおに暗に言ってくれてたのか。今頃気づいた。

「そうか、なるほど」

思わず口からこぼれた。

「えええ、みさおさんほどの人が、そんなん知らんって、うそでしょ、うそでしょ」

チャラ男マンが嫌味で言っているのではないのが口ぶりからわかった。彼は生意気で、タメ口を聞くけど、中堅セールスマンみさおのことはリスペクトしていた。だから、余計にショックだった。

こんなあたりまえのこと、基本でしょと、言われているように感じたのだ。言われてみたら、確かにそうだ。俺はいったい何様のつもりだったのだ、なぜ、7年間もこんなことに気づかずに、偉そうにしていたのだ。対等ってそんなに大事か、相手に嫌な思いをさせているということに配慮がなかったのかと、中堅セールスマンみさおは打ちのめされることになった。

チャラ男マンはその日、そこからおとなしくなった。中堅セールスマンみさおが、なんらかの理由で凹んでいるのがわかったからだ。このあたりの空気を読む力はさすがだ。

そのあと数件の商談を終え、中堅セールスマンみさおはチャラ男マンと別れた

「みさおさん、今日はありがとうございました。勉強なりました」

と、くったくのない笑顔で車を降りていった。

「おお、おつかれ」

と、中堅セールスマンみさおは、力なく言い、帰路についた。
あいあい
もちろん、商談相手によって、変える必要はある。商談が本当に対等なら、最後まで、リベートそのまま、相手を論破するのが必要な場合もある。謝ったり、頼んだり、こちらの弱みを見せたら駄目な場合もあるので、いちがいに中堅セールスマンみさおの商談が悪いとは言えない。

ところが、こちらの提案が完璧で、それがクライアントの利益になるとわかっている。それを、示してくれている提案だから、成立させたほうが絶対にクライアントが得になる。でも、なんだか、それだからこそ、言いくるめられた感が残ることもある。実際に、あまりにも、上手く説明されて、こっちのほうが得でしょ、買いなさいって、店頭で店員に言われたら、何だかなあと思うことがある。

どっちが正しいなんてない、臨機応変ということもある。でも、中堅セールスマンみさおのように、まったく、それに気づいていなかったというのも問題だ。

この事件のあと、中堅セールスマンみさおは大いに迷う。10年間やってきたセールススタイルが否定された形になったからだ。事実、このあと中堅セールスマンみさおは低迷し成績も下位にはりつく。

それでも、彼にとって、この経験はのちに大きな財産となる。チャラ男マンとの同行がなければ、彼はベテランセールスマンみさおにはなれていなかったであろう。セールスの本質がここにはある気がする

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