大型書店で出会ったふたりのセールスのその後1

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この記事は前回の記事の続きです。

臨場感あふれるセールスのやりとりがおもしろいと人気だった前回の記事。まだお読みになっておられないかたは、そちらをお読みの上、今日の記事をお読みいただくと、より一層、お楽しみいただけると思います。まずはそちらをお読みください。

『大型書店でであった、ふたりの出版社のセールス。果たして勝ったのは』

情報収集のために訪れた大型書店に、出版社のセールスが営業にきていた。しかも、立て続けに2人も。その現場に遭遇できた、超ラッキーなお話なのです、これは。
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今回、残念ながら対決に負けた、ひとりめの営業マンをa氏、後からきて、見事に勝利したふたりめの営業マンをb氏とする。この勝負は、7冊の受注を決め、しかも複数箇所に本を展開してもらう約束をとりつけたb氏の圧勝となったのだが、なぜ、そうなったかを、どの本にしようかなと物色する振りをしながら、耳をダンボにしつつ、40分貼りついて、リサーチをしていたノームコアセールス代表であり、河村総合研究所の主任アナリストである河村操が独断と偏見と経験だけできりとった、完全な主観でお届けするお話である。

1 出版社の書店に対する営業は、B2B2Cセールスとよばれるもの

B2B2CというのはBtoBtoCを別の形でオシャレに表したものだ。

B2BとかB2Cという表現はお聞きになったことがあると思う。Bはビジネスの略でCはカスタマーの略。そのセールスが企業向けに行なわれるものはB2Bであり、顧客や消費者向けに行なわれるのはB2Cになる。

B2B2Cは企業に売り込んだ商品がさらに、カスタマーにわたる類のセールスの形。書店はまさにそうで、出版社という企業が、書店という企業に売り込み、売り込まれた本は、さらに顧客にわたる。この形がB2B2Cというわけだ。ちなみに、私が20年間携わってきたセールスもB2B2C。製薬メーカーで風邪薬や胃腸薬や頭痛薬を作っていた。ドラッグストアーにセールスし、その商品がお客様にわたる、B2B2Cのセールスだ。

このスタイルのセールスを行なうに置いて、色々注意する点が多いのだが、その中で、意識すべきは、最終購買者であるカスタマー、消費者だ。

最高の企画書と、完璧なセールストークで書店に本を購入してもらっても、それが、消費者の手にわたらなければ、この本は日販やトーハンなどに代表される取次を通してメーカーに返品となって帰ってくる。書籍の場合、その際にかかる経費の負担がどうなっているかわからないが、製薬メーカーの場合、返品された商品は廃棄処分となり、それにかかる流通や廃棄処分の経費は全部メーカーの負担になる。

つまり、納品したものは、できるだけ返品にならないように消費者の手に届くようにする必要があるのだ。もちろん、その役目を主に負うのは、小売店である書店やドラッグストーアだ。売れるように演出し、展開していく。ところが、実力のある、できる営業マンは、当然、その展開方法にまで考えを巡らせて、小売店に対して、アドバイスを行なう。

納品したあと、どのようにすれば、商品がはけていくのか。このあたりを意識しているのといないのとでは、そのセールスに雲泥の差となってあらわれてくるのだ

2 多面展開

そこで、そのひとつの考えとしてあるのが、多面展開や複数箇所陳列とよばれるもの。商品は1箇所より2箇所2箇所より3箇所と展開する箇所を複数にしたほうが、売上があがる。まあ、そんなことはあたりまえに想像がつくだろう。

今回、立派だったのは、a氏b氏ともに、この多面展開を頭のど真ん中において、セールスを行なっていた点だ。立派って、お前、なにさまやねんというツッコミが聞こえてきそうだが、まあ続けることにする。

a氏もb氏も、ビジネス書担当の書店員に対して、多面展開の話をしていた。いみじくも、ふたりのセールスは、本の売り込みを終えた後、ほぼ同じセリフを口にした

「で、この本なのですが、2箇所で展開させてもらうわけにはいかないでしょうか」

と。

まあ、あたりまえと言えばあたりまえなのだが、このセリフをきっちり言えるというのは、なかなかできない。書店のスペースは限られている。一般的に1日に200冊以上の本が新刊として出されていると言われている。とてもじゃないが、すべての本を展開するわけにはいかない。又吉直樹の『火花』なんかは、大量に積む必要があり、そういうベストセラー本に場所を奪われ、ますます、場所は限られてくる。

それをわかった上で、多面展開の話を切り出すのは勇気がいる。えええ、そんな本、1箇所でも、どうかって思ってるのに、なんて厚かましいの、もういいわ、買いませんとなる可能性だってあるのだ。実際、a氏がそう言ったときの書店員は

「ええええ、2箇所ですか。そんなの絶対にむりです」

という反応だった。その反応に、焦ったa氏は。

「いやいやいや、もちろん、そうですよね。スペースないですよね」

とたじろいで、もういりませんと、言うセリフを書店員にはかれないように、とりつくろった。もういいですと言われたら、ゲームセットですからね。

3 まずa氏

では、なんとかゲームセットにならなかったa氏のセールスについて見ていくことにしよう。

a氏は、結局、最後までこの多面展開にこだわったことが、敗因の最大要因となった。複数箇所で展開したほうが間違いなく売れる。そんなことは、だれだって解るというのは先程も書いた。なので、a氏は、そこにこだわったのだが、話を聞いていると、どうも、上司にそうやって言われたから、やっている感じがとても強くでているのだ。

本をできるだけ多く売りたい。この本を、ひとりでも多くの消費者の手にわたって欲しいというのが、全然みえてこないのだ。もちろん、そんな気がなくてもいいが、そんな気持ちで、この本を売っているのですよという演出は最低限度いる。

上司に絶対に多面展開を勝ち取れよと言われているかのようなセールストークが続く。そんなスペースありませんよと言った、書店員は、あきらかに、商談を嫌がっている。忙しいというのもあるが、どこかタイミングの悪いこのセールスに嫌気をさしている感じだ。

それに輪をかけるように、複数展開させろというのが、彼女の気分を害した。a氏には状況を判断する能力がかけていた。彼女はワゴンに山のように積まれた本を、まったくスペースのない書棚に何とかして入れようとしているのだ。平積みになった本から数冊抜き1冊にして、きちきちに詰まった棚から本を抜き、その1冊を入れる。

棚から抜いた本をワゴンにのせる。おそらく返品となるのだろう。ビジネス書のコーナーを縦横無尽に走り回り、本を入れ替え、四苦八苦しながら、入荷した本を並べている。その様子は、客のわたしが見てもわかる。

間が悪すぎるのだ。

えええ、わたし、今必死でスペースみつけて、本を並べているのわかりますよね(余談だが、この書店員は、セリフのほとんどに、えええ、というのを冒頭につけていた)そんな状況なのに、そのあまり売れてなさそうな本を複数箇所って、わからんかなあと言うオーラを思いきり発している。俺が上司なら、

「複数なんて滅相もありません。取り扱いいただけるだけで、充分でございます。どうでしょうか、7冊だけでいいので、お願いできないでしょうか」

と言って、a氏の腕を引っ張って退散している。それほどの事態なのだ。なぜか、書店員は、やたらバタバタし、社長が店舗視察にくるのではないかというほどの、感じだった。社長がくるまでに、なんとか本をいれて、演出しないといけないのに、なんなのって感じだったのだ。

残念ながら、a氏はその空気をまったく読めない。ついに切れた書店員は、ついに最終手段をこうじた。

「わかりました。じゃあ7冊送っておいてください」

そういって、本を再び並べ始めた。私もよくやられたからわかる。忙しくて仕方ない時に、しつこいセールスを追い返すひとつの方法なのだ。わかったわかった、もう買うたるから、帰ってくれという感じなのだ。これをされると、買ってもらってうれしいのだが、迷惑なのもわかって、なんとも言えない気分になるのだが、やることは、一目散に帰ることなのだ。

これ以上迷惑をかけるわけにはいかないのだ。そうだよな、この流れだったら、そうなるよな。まあ、万全の結果ではないけど、7冊売れたのだから、まあよしとするか。さあ、お礼を言って帰ろうぜa氏よと、結末を迎えた、セールス劇場の終焉を寂しく思いながら、席をたとうとしたら、とんでもないセリフがa氏から飛び出した。

「何冊ならいいですか?」
「はい?」

予想だにしなかったセリフに、書店員は、もっていた本を本の上に置き、腰から折っていた上半身を垂直に立て、右手を右腰に左手を左腰に当てるべく、もちあげながら、上半身を160度ねじって、a氏をみた。いや、睨んだ。

「7冊です。少ないですか?」

完全にキレ気味にはかれたセリフに、a氏は続けて

「いやちがいます。何冊で多面展開できますか」

おいおいおいおい、まさかのアンコールかよ。わたしは劇場をさろうと席をたったのだが、アンコール開催に引き戻され、再び席についた。やるねえa氏、食い下がるね、それは粘りって言わないよ。迷惑行為だよと思いながら、これからの展開を想像するとワクワクせざるをえなかった。

だめだ、このままセリフを吐いては、キレてどなってしまう。そう思ったのか書店員は、少し間をとり、息を大きく吸い込んで、息を吐き、両腰においた手をさげ、体側に沿わせ、静かに

「複数箇所は、無理なんです。みていただいたらわかると思うのですが、置き場所がないんです。すみませんが、7冊以上はむりです」

と言った。するとa氏は

「違うんです。そうじゃなくて、複数で展開する場合、何冊くらい必要ですか」

なんなんだ、このセールスは、めんどくさいなあという感じを十二分にかもしだし、しぶしぶ答えた。

「15冊くらいはいるんじゃないでしょうか?」
「はあ、なるほど」
ようやく、聞きたかった回答を得られたa氏は急にテンションがあがり
「1ヶ月ですよね」
「1ヶ月?」
「はい、1週間ですか?」
「1週間?」
「はい」

どうも話が噛み合っていない。話が噛み合っていないのは、書店員、a氏、私が同時に気づいた。そして、一番早く、なぜ噛み合わないのか理解したのは私だった。

結論はこうだ。

a氏は、どれくらいの本が店頭から売れれば、複数展開してもらえますかと聞きたかったのだ。今回は、1箇所でやらせてもらって、それが飛ぶように売れたら、複数箇所で展開してもらえますよね、その売れたと御社が判断する数字はいくつですか?何冊ですか?と聞きたかったのだ。

一方書店員は、複数箇所で展開するために物理的な数として15冊くらいはないと2箇所に置けないよねという意味で数を答えたのだ。そのずれが生じて、今回のちぐはぐな会話となったのだ。このちぐはくは、この後、数十回のやりとりで、修正されていくのだが、完全に悪いのはa氏だ。

複数箇所で展開するのは、まず一箇所で展開して、実績が得られた本が、複数箇所に格上げされて、展開されると思い込んでたこと。そう決めつけて話し始めたこと。実際、それを聞いた書店員は、うちにはそんな制度はないが、あえて言うなら、まあ週に2冊くらい売れたら、複数箇所を考えますかねえと、答えていた。

自分のなかで前提を決めて、この書店も、他の書店と同じように、まずは一箇所での実績だと思い込んで話ていた。通じるはずもないのだ。

根負けした書店員は、もし、そうならという話にまで付き合ってあげていた。やさしい方だなあと思う。

結局、まったく空気を読まず、一連のセールス活動を終えて帰っていったa氏。人間は社会性を選んだ。コミュニティーをつくりコミュニケーションをとっていく必要がある。なぜ、こういうことが起きたのかを真剣に考えないといけない。もし、御社のセールスが、あなたと話をするときに、まともに会話できていないのなら、クライアントとa氏のように振舞っている可能性は充分ある。

そういう意味において、社内でコミュニケーションを頻繁にとり、相手のことを思う行動を常にとらせるというのは、すごく効果があると言えるだろう。家でできないことが、外でできるなんてことはありえないのだから。

まず、相手がどういう気持ちなのかを、必死で見て、それに対して、どういう態度をとるべきなのかを、最初に学ぶべきだなと、今回のセールス劇場をみて、あらためて思った。

話が長くなったので、今回はこれでペンを置くが、実は、このあと、もうワンシーン、象徴的なできごとが起こるのだ。次回の記事は、そこから展開することにする。そのあとはb氏にも登場してもらって、その違いを見ていただくことにする。次回もおたのしみに。

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