経験値と形式知の融合がノルマに追われたセールスを救う。理論と実践がセールスの基本行動様式である。

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東条薬局(仮名)が店舗のレイアウトをいじるので時間がある人は顔出してくれないかと何となく言われる。

強制はもちろんできないので、任意での同行、いや任意の参加になるが、なぜか私をはじめ、ライバルメーカーや問屋のセールスが10人ほど集まった。集合時間は朝の10時。10分前の9時50分の時点で、8人が集合していて、あと2名の到着を待っていた。

なんとなく会話が途切れ、シーンとなったときに、あるメーカーのセールスが、壁にかかっている魚拓をみて

「59センチですか、このチヌでかいですね。先週の水曜日ですね」

と目ざとく言った。ここにいる全員が、この店の店主がチヌと言われる黒鯛釣りに熱心なのは当然知っている。魚拓は壁一面にかけられている。そんなのは、いつも見ているし、いつも褒めている。ところが、この真新しい魚拓に気づいたのは彼ひとりだった。

やられた、と誰もが思った。店主はうれしそうに

「そうそう、これなあ、行って10分ほどであがったんや、今年一番のサイズや」

と言った。それを聞いた他のセールスはいっせいに、ほー、とか、へーとか、すごいですねえと口にした。私も当然便乗した。みなに褒められて上機嫌になっている店主。その様子をみて、うんうんとうなづいているセールス。感嘆の声と得意げな店主の表情が素に戻りかける時に、ここだと思って、わたしは声を発した。

「落とし込みですか、ウキですか」

鎮まりかけた時に、いきなり聞こえてきた、暗号のような音に、店主を含めた8名がいっせいに、その音の出処である、私のほうを見た。その瞬間、わたしは、勝利を確認し、こころの中でガッツポーズをした。そして、狙いどおり店主は目を再び輝かせ

「おとしこみや」

とうれしそうに言った。そこで私は畳み掛けるように

「カニですか?」

と聞いた。他のセールスは、このやりとりをポカンとした顔でみている。カニって魚釣りのはなしやろ、なにゆーてんねやと思っている人もいただろう。

「そうや。なんや河村くんもチヌやるんか?」
「いえいえ、やるってほどではありません。友達に好きな奴がいて2,3回連れて行ってもらったことがあって。安宅のテトラでやりましたけど全然でした」
「そうか、そんなんで釣れたら、わしもこんなハマってへんで」
「ですよね。だからすごいなあと思っていつもみてました」

といいながら、壁一面に貼られている魚拓に目線を送った。他のセールスも何人かは私に釣られて魚拓群をみていた。ちなみにカニはチヌのエサの代表的なもの。エサの種類を聞いたのだ。

店主はさらに上機嫌になった。これから始まる作業はまあまあ辛い。そんな中、店主の機嫌をよくしてくれて、ありがとうと思っているセールスもいれば、やられた、みごとにおいしいところもっていきやがったと苦虫を噛み潰したような顔をしているセールスもいた。とくに、あたらしい魚拓をみつけて、先陣をきったセールスにはたまなくウザかっただろう。
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(写真はイメージです)
こういう経験値や知識がセールスに思わず役に立つことがある。そういう意味では、広く知識をもっていることはセールスにとって大きなメリットなることとなるのだ。基本的に広く浅くでいいのだが、今回は、わたしの知識が、他のセールスより少しだけ深かったことが、圧倒的に有利に事を運んだ。

知識と言うとなにかとても高尚なものに聞こえるが、ちょっとした雑学や趣味の知識が、こういったことを起こすことにもなるのだ。なんにでも興味をもち、広く知ろうと言う思いを普段からもつことで、それが、あなたを救ってくれることとなるのだ。

この話には後日談がある。

店のレイアウトの作業を終え、そのあとの最初の訪問時に、釣りの話になった。人は、よりそのことについて精通している人からの評価のほうが、うれしいのである。例えばカラオケにいって、そこそこ上手い歌を披露した時、みなに褒められるのも嬉しいが、その中のひとりが、音大出身で声楽を専攻してたりして、その人から、上手いって褒められると、また、ちょっと違いますよね。

そういう意味で、広く、そして、ほんのすこしだけ深くものごとを知っておくことが、セールスとしてのあなたの仕事の手助けになってくれる。

ほとんどの知識が、役に立つことなく消えていってしまうと思うが、たまに、こういうヒットもあるので、自分のためと思って色々好奇心を持って知識を入れまくっていただきたい。

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