愛想もくそもないうどん屋に、接客に人一倍うるさいわたしが、なんども通ってしまう理由。しんのおもてなしがそこにはある。

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お気に入りのうどん屋にはいる。店主はいつものように客用のテーブルに座りスポーツを新聞を広げテレビを見ている。入り口の引き戸をあけると備え付けてある鐘がなる、ガランゴロン。その音に反応した店主が両手に持ったスポーツ新聞を少し下に下げ新聞の上からのぞき込むように音の鳴るほうを見る。にらまれた私は頭を下げる。

店主はいらっしゃいも言わず面倒くさそうに新聞をたたみ立ち上がる。給水器のレバーを空のコップで押す。ガラガラと音を立て氷入りの水が落ちてくる。左手にコップを持ち右手で温蔵庫をあけおしぼりを取り私に近づいてくる。私は入り口に近いテーブル席にすでに着席している。

店主はコップとおしぼりをおもむろにテーブルに置いた。わたしは置いてあるメニューをとった。何を食べるか決めかねている私に、店主は熱い視線を注いでいる。その重圧に耐えられなくなった私は結局いつも通り注文する。

「五目定食おねがいします」

本来ならここで店主は初めて言葉を口にする、はいと。ところがその日はそれさえいわない。店主はまだひとことも言葉を発していない。ついに返事もしなくなったのかと思って水を飲もうとコップに手を伸ばすと、店主は、厨房に向かって3歩歩いたところで立ち止まり振り返りその日初めての声をだした。

「かやくご飯が売り切れたからおにぎりになるけどいい」

おにぎりか。うどんも白いから白づくしやなあと思いながらないのなら仕方ないと観念し

「はいそれでおねがいします」

と言った。店主は返事もせず伝票に注文を書いた。注文は通っているようだ。そしてこのあともうひとつ必ず出る声がある私はそれを待った。

「うどん茹でるのに10分くらいかかるけど」
「はい大丈夫です」

きた。その言葉はいつも通りに発してくれた。店主がその声を発生している感じが何とも言えなくて私は好きなのだ。少しおびえながら少し怒りながら少し開き直りながらその声をだす。

おそらくこの10分を長いとし怒るお客さんがいるのだろう。うどんなんてすぐ出てくると思っている人が多いのだ。実は違う。しっかり練った腰の強い讃岐系のうどんはゆでるのに10分くらいかかる。それくらいの時間は必要なのだ。わたしなんかは逆にそう言われるとうれしい。腰の強いうどんを食べれるのなら10分だって20分だって待つ。ところがそういう客が少ないのだろう店主の表情にあらわれている。

だから私は目一杯の笑顔で答える。それで店主の気持ちが少し楽になるからだ。本当なら10分くらい全然平気ですよ。それくらいはかかりますものねくらい付け足したいほどだ。ところが私がそれをやると途端にうそくさくなる。だからやめておく。

店主が不機嫌なのはうどん茹でるのに10分かかるのを受け入れない客が多いからと言うだけではない。おそらくようやく落ち着いたところに私がきたからだと思う。実はこの店ものすごい繁盛店でお昼時はまず待たないと座れない。サラリーマンやOLで一杯になる。そしてその後はその混雑を避けようとする主婦や時間をずらして昼休みをとれる営業マンで一杯になる。だから12時前から14時過ぎまでずっと客が途切れない。
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(写真はイメージです)
それを知っているフリーな私はその後に行くのだ。14時半頃である。昼の戦争をおえた主人がほっとしているときだ。アイドルタイムと言われる飲食店が暇な時間帯。この時間帯は一時閉店としている店も多い。昼の部と夜の部を分けて15時から17時くらいまでのあいだはのれんを下ろしていたりする。ところがこのうどん屋はそれをやらない。朝から晩まで営業している。だったらもうちょっといらっしゃいと歓迎してくれたらよいような気がするが一切ない。

そんなに嫌なら閉めたらいいのにと思うがそうでもないらしい。ほとんど口をつかないがうどんは作ってくれる。職人肌のおやじさん、うどんはしっかり作る。おもてなしは皆無だが私が通う理由は味。ものすごく上手い。今回はかやくご飯ではなく残念だったが代わりに作ってくれたおにぎりも抜群に上手かった。

基本的にわたしはおもてなしがものすごくすき。人一倍うるさいと言ってもよいだろう。本来ならこういう対応をする店にはどんなに上手くても行かない。ところがそこのうどん屋にはもうずっと通っている。それには、理由がある。最後の最後に、かならず発する言葉があるからだ。

「長い間待たせて悪かったね」

この言葉にやられてしまう。くそ愛想もない親父にやられる。そして、また行きたくなる。お、も、て、な、し、にも色々ある。

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