究極の営業マンはクライアントに売り込まれ感を一切持たすことなくセールスを完了させる

シェアする

「ありがとうございました」

ドラッグストアーたかた(仮名)で商談を終えた中堅セールスマンみさおは、お礼を言って同行の吉村部長(仮名)と共に店を後にした。

新製品の紹介だったが、見事に受注が決まり、同行の吉村部長もご機嫌だった。二人は近くのコインパーキングに止めていた社用車にのりこんだ。シートベルトをひっぱりながら吉村部長は口にした。

「みさお氏、飯にしよか。うどん屋行ってくれ」

なぜか部下の名前を下の名前でよび、名前の最後に氏をつける部長は、こう言うと、シート左横についているレバーを引き、シートを倒し足をダッシュボードの上に置いた。体重があるから足が疲れるのだろうか、彼は車にのるときはかならずこのスタイルをとった。

はいと、返事をした中堅セールスマンみさおはいきつけのうどんやに向かった。しばらく走っていると吉村部長が口を開いた。

「みさお氏。お前さあ、あんなこと言われて喜んでたらあかんで。店主は、お前のことを気に入っていて、ほめてるつもりやけど、あれは営業マンとして一番言われたらあかん言葉やで」
「どれですか?」

なんや、このおっさんは。受注できてんからええやんけ、いちいち文句いわんでも、うっとうしいなと思いながら答えた。イライラが声にでたような気がしたので、しまったと思ったのだが、部長は気にしている様子でなかったので、ほっと胸をなでおろした。

どの言葉のことを言っているのをわかっている中堅セールスマンみさおに吉村部長は続けた。

「あれやないか。この子は全然売り込んでこないから好きなんです。前の担当者の田中さんは、もうしつこくてしつこくて、嫌やったから、ほんと嬉しいんですよ。部長さん、担当代えないでねって言っとったやつや。あんなん言われたら終わりやで」
「はい」
「はいって、お前わかってるんか。お前は御用聞きやない。商品を売り込みに言っているんやで。そのクライアントが、全然売り込まへんから好きって言ってる。へらへら笑っている場合ちゃうで、セールスとして最高の評価をいただいたんやで」
「はあ」

中堅セールスマンみさおの頼りなさそうな返事を聞いて、吉村部長は、だめだこりゃみたいな表情をした。まもなくうどん屋についたので、会話はそこで終わった。

結論から言うと、中堅セールスマンみさおは、部長やクライアントの創造をはるかにこえている。実際に、この店舗は前任の田中のときより実績を伸ばしている。前年比130%ほどのアップになっているのだ。

このことに、店長はまったく気づいていないということになる。中堅セールスマンみさおは、先方に売り込みと感じさせない商談できっちりと売り上げを伸ばしているのだ。相手に不快感を与えるどころか、逆に好印象を与えながら、確実に売り上げをのばしているのだ。
スキャン0007
買ってくださいと、押しこむセールスにもメリットがあり、それが駄目だということを一概には言えないが、このクライアントにとってはマイナスだった。それを嫌がっているのを中堅セールスマンみさおは感じていたので、このクライアントに対しては、一切なにも売り込むことなしに、商談を終えていたのだ。

中堅セールスマンみさおはうどん屋にはいり、部長と自分の注文をオーダーしたあと、カバンから1枚の資料をとりだし、部長の前にさしだした

「なんやこれは」

さきほどの店舗の年間実績です。上段が前担当者の田中さんが担当していた期間で、下段がわたしになってからです。部長は手に取り書類をみいったあと、まもなく口を開いた

「伸びとるやないか。20%くらい伸びとるんか」
「30%です」
「ふーん」

怪訝な顔でそういうと、部長はその紙を中堅セールスマンみさおに返すようにテーブルの上に置いた。理由を知りたかったのかどうでもよかったのかはわからないけど、とりあえず説明しておこうと中堅セールスマンみさおは、返却された書類をカバンに戻しながら言った

「売り込まずに売り込んでいます。担当が変わったときに、開口一番釘をさされました。前の担当者は売り込みばかりでいやだったと。それを聞いたわたしは、とりあえず売り込みはやめておこうと決めて、せめることにした。もちろん、セールスなので売り込みはします。でも、それが売り込みと見えないように、やる方法を模索し、やってきました。だから、向こうはそれを売り込みと感じず、部長にもあのようにおっしゃったのだとおもいます」
「おお、そうか。まあ、でもあれやで、売り込みもせなな」

中堅セールスマンみさおの長い説明で全てを把握した部長は、きまずかったのか、適当にお茶を濁し、店員が持ってきたうどんを食べはじめた。きっちり伝えられたことを確認した、中堅セールスマンみさおもそれ以上何も言わず、はしに手を伸ばした。

いずれにせよ、見事に商談を終え、勝ちいくさにしたふたりは、気持ちよく、うどんのすする音を店内に響かせていた。売れたあとの達成感をそれぞれ噛み締めながら。

シェアする

フォローする

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong>